玉祭の句から

毎年、この夏の盛りの頃になると、亡くなった人たちのことが思い出されます。

帰省シーズンやお盆休みや原爆忌などが重なっているからでしょうか。

松尾芭蕉に「数ならぬ身とな思ひそ玉祭」という句があります。

元禄七年七月十五日伊賀上野での松尾家の盂蘭盆(玉祭)のおり、寿貞という女性に捧げた句と言われています。

彼女は、芭蕉の幼馴染とも、一時は妾であったとも、諸説紛々ですが、いずれにしても縁浅からぬ女性であった寿貞が4か月前に亡くなったことを悼んでの句です。

「このお盆にあたってわたしはあなたのことを思っています。どうか、ご自分のことをつまらない身だと思わないでください」。

この句の中で「身」と「玉(魂)」という二つの語が、人間のかけがえのない「いのち」を表現していることが素敵なことだと感じます。

また「魂」のことを「玉」と言い表わして、何か、人間のいのちが、「掌中の玉」のように、この上ない宝なのだという素朴な信仰がそこにあって、わたしは感銘を受けます。

ついでながら、芭蕉はこの年の十月十二日に旅先の大阪で亡くなりました。(たばた)